自分でルージュをひく姿が妙に艶めかしく思えるようになったのは、ごく最近のこ
とだ。
鏡に映し出されている顔は、もう飽きるほど見知っている。真紅に近いこの口紅を
使うのも決して初めてではない。妙に色気づきたくなった十代の頃から、親の目を盗
んでは体感していたことだ。
精一杯背伸びしている早苗の姿を、鏡は特に動揺することなく映していたのを覚え
ている。
カガミよカガミ。
いまではすっかり聞かなくなったおまじないを密かに念じてもいたが、やはり変化
はなかった。
ただ、声に出さなくては願いが通じないと悩むほど純でない部分も、あの頃と変
わっていない。
母から譲り受けたこの鏡台は、いまも昔も冷静なままだ。目の前のものの姿形は憎
らしいほど鮮明に映し出すが、早苗が思っていることに対しては平然と無視してい
る。
仮に思ったことがあったとしても、決して言葉にしようとはしない。
(おしゃべり好きだった母とは大違いね)
鏡の前で笑ってみせる。白い肌に紅いルージュがよく映えていて、悪くはない。
しばらく鏡を通して自分の表情を見つめていると、普段とは違うものが読み取れる
気がした。
少なくとも、出勤前にするメイクとは違う。
社会人としてのTPOを遵守するための義務的なものではなく、単に早苗自身を少
しでも綺麗に見てもらうためのもの。感覚的、フィーリングだと思う。
たくさんの人混みの中にいても、すぐに自分だと、彼――謙太にわかってもらえる
ように。
早苗にとって、こんな想いは久しく失われていたものだ。
夫を亡くし、子供のいない早苗が普通の社会人に戻ったのは五年前。それから何人
かの男と関係を持つことはあったけれど、結果的には一時の寂しさを埋めただけに過
ぎなかった。
まだ若いのだからと再婚を勧めてくる親類もいたけれど、気が進まなかった。
亡夫をいまでも愛しているのか――それもまた、なんとも言い難かった。
もしかしたら、新しくなにかを始めることにいささか無関心だったのかもしれな
い。
繋ぎ止めていたものが切れて、長く宙に浮いたまま。そんな自分を捕まえてくれた
のが、八歳年下の謙太だった。
未亡人という立場になってから、とりあえず生活していくための仕事ばかりしてい
た早苗に、別のなにかを吹き込んでくれた気分になった。最初は過去の男たちと同じ
ように一晩二晩で終わると思っていたのだが、いまは一、二週間に一度の割合で逢っ
ている。
約束を交わしたのが一昨日。それからずっと、仕事以外の時間帯では少し頬の弛み
を覚えていた。鏡に向かって作る笑顔も、営業スマイルとは明らかに一線を画してい
るのがわかる。
メイク・アップ。
今年で三十五になる早苗には少々似つかわしくない表現かもしれなかったが、そん
な意識で鏡台に向かっていたことは間違いなかった。
今日は、部屋にやってくる謙太を手料理で迎えることにしていた。
早苗としては、あたかも本当の夫婦であるかのような錯覚を抱くかもしれなかった
が、それは薄かった。
その理由として日常的なことではないからだと思ったのは、仕事帰りの謙太がネク
タイ姿のままでいることと、料理が彼の口に合うだろうかと頻りに気にしていたから
かもしれない。
腹が減っていたから、と謙太は早苗が出したすべての料理を平らげた。ごちそうさ
ま、おいしかったと褒めてくれたのは、お世辞でも嬉しい。
早苗は食器の片付けをしてから、年下の恋人が待つリビングへと向かう。
テレビなどは一切つけていない。たまに動き出す空調機器以外の音はなかった。
これからなにをするのかという意識もお互いに理解していたのだろう。余計な音や
声は、この場には必要なかった。
隣に座ると、謙太はすぐに身体を近づけてきた。
「早苗さん……」
突き出された口唇が塞がれる。
ソファの背もたれに身体を預ける窮屈な姿勢だが、いまはこのままでよかった。
押し倒された拍子に両脚が軽く拡げられ、その間に謙太の左脚が割り込む。
ニットの上着越しに手が這い回る。乳房を揉むような手つきをしてから、下に回っ
て服の中に左手を入れてきた。
ノックしてくる舌先に応え、早苗が少し口を開けると、謙太はすぐに唾液を流し込
む。
ブラジャーごと乳房を鷲掴みにして、指を食い込ませる。いっぱいに広げられた掌
が隠れている乳首を刺激しつつ、ぐいぐい揉みしだいてきた。
「あんっ、ダメ……じかに触って……」
唇を離し、早苗はニットの上着を捲った。
濃紺のブラジャーに飾られた大きめの乳房が、彼の前に晒される。
すぐにブラのホックをはずして、乳首も露わにさせた。伸びてくる両手が左右の乳
房を再度覆い、まずは撫でるような手つきで双乳を這い回る。
ゆっくり、じんわりと。
早苗の表情にそう変化はないが、呼吸は少し荒くなってきている。本当に撫でるだ
けの愛撫なので、まだ心地いい段階といえるはずだ。
くすぐったさに早苗が深く息をつくと、いきなり力を入れて掴む。
「あっ!」
謙太は両手に力を込め、それまでとは全く違う強さで乳房を揉みしだく。掌に少し
体重を乗せて、弾む双球に指先を食い込ませる。
指の間からこぼれた乳首が徐々に熱を帯び、堅くなってきた。
「早苗さんのおっぱい、柔らかくて、あったかい……」
早苗の豊かな乳房は、大柄な謙太の手にも少し余る。食い込ませている指先を押し
返そうとするかのような弾力がたまらない。触った男を必ず満足させる美乳だ。
謙太は引き込まれるように、早苗の乳首を口唇で包んだ。
「あぁっ……」
濃桃の乳頭を舐りながら、乳輪ごと時折吸いたてる。
唾液を塗した部分がみるみる痼っていくのを堪能しつつ、謙太は空いていた手を早
苗の下半身へと滑らせた。
パンティもブラジャーとお揃いの濃紺。同じく濃紺のガーターベルトが吊っている
のはベージュのストッキングで、太股を飾っているストッキングの境目が自分を誘っ
ているようだ。
謙太の手は太股から股間に向かっていた。パンティの布地がやや盛り上がっている
部分を指で探る。
「んふぅっ……うぅんっ」
指先を押しつけると、早苗の腰が震えた。
湿った感触が伝わってくるのは薄々悟っていた。パンティの中で熱くなっている陰
唇は、結び目が緩くなり始めている。
その結び目に沿って指を上下させると、早苗の両脚が徐々に開き始めた。
謙太は口唇の中でじっくり弄ってぴんぴんに尖った乳首を、最後に甘噛みしてから
ようやく離した。
「あんっ……あぁっ、はぁっ……」
早苗は薄目を開けた表情で、謙太を見つめている。早く次の愛撫をしてほしいと訴
えているかのように思え、謙太は未亡人の下半身へと顔を近づけた。
間もなく姿を現した濃紺のパンティ。股間の部分に染みができているのをはっきり
と確認する。
「早苗さん、すごく濡れてる」
「いやっ、言わないで」
早苗は首を振るが、両脚はしっかり拡げられていた。
見られることが本当に嫌なら、こんな格好をしているはずがない。
恥ずかしいと思っているのならもっと辱めてやりたいと、謙太はパンティの附縁に
指をかける。
「見せてもらうよ、早苗さんのおまんこ」
「いやっ、いやいやっ」
謙太は早苗のパンティを脱がせず、布地を横にずらした。
未亡人の濡れた秘唇が露わになる。
閉じられているはずの花びらが綻び、愛液が漏れ出ていた。パンティを濡らしたの
がこの愛液なのは疑いようがない。
早苗が興奮しているのは明らかだった。謙太のスラックスの中でも男根がいきり
立っていたが、まだ出さない。
早苗だけが衣服を乱し、謙太の愛撫に喘いでいる。そんな光景をもっと堪能した
かった。
「あぁっ、あんっ……」
指先を秘唇に埋めてみる。
感触はとてもスムーズで、早苗の陰唇は少しずつ中指の第二関節まで呑み込んでい
く。ふた呼吸ほど置いて、謙太は指を動かし始めた。
「あんっ、あんっ、あーんっ!」
両脚をぴくぴく動かしながら、早苗は謙太の指を受け入れていた。久しぶりのセッ
クスに身体が悦んでいるのか、まだ謙太自身を受け入れてもいないのに恥ずかしい声
が漏れ出してしまう。
謙太の指が前後して、膣内を擦る。
指の動きはやがて円を描くようになり、湿った媚肉を掻かれて悶える早苗の喘ぎ声
が高く、弾んできた。
さらに謙太は口唇を近づけ、陰唇に直接口づけた。
「……あっ、あぁんっ!」
わずかにはみ出している小さな突起を舌で突つく。膣内から新たな熱い波が来て、
愛液が謙太の口に零れる。
敏感なクリトリスに細かな刺激を加えながら、中指を少し曲げてねじるように動か
す。
ずらされたパンティの一部分が濃く変色していた。染み出した愛液がさらに広が
り、秘唇を覆っていた部分はまんべんなく湿っている。
「も、もう、ダメぇ……謙太君、私、我慢、できない……」
2004.10.8
画像差し替え:2012.8.11
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